写し

 
 

 1.1  呼吸の大切さ

 

 

 第1話では、呼吸の大切さと、呼吸が私たちがコミュニケーションをする上でどのように関わっているかをお話します。私たちが "コミュニケーション"について考えるとき、呼吸のことなどは考えないかもしれませんが、このエピソードを聞いていくうちに、実はコミュニケーションにとって重要な基礎的要素であることがわかってきます。それでは私たちの呼吸がどのように、声、心、体に関わっているか、またどのように呼吸パターンがどのような形で一連の意思疎通のやり方やコツの基礎になっているか探っていくことにしましょう。

 コミュニケーションやプレゼンにおいて効果的に意思疎通を行うには、適切な呼吸をすることが不可欠です。それはどういうことなのか早速お教えます。呼吸法は多くの活動や修練に活用されています。呼吸の速さ、深さ、頻度や、肺のどの部分に空気を送り込むのかといったことが、自身の声、心、体をいかに上手く操って成果を出せるかに関わってきます。スキューバダイビングをするときとマラソンをするときでは、呼吸の仕方が違うはずです。スポーツをする時は、胸を広げて呼吸し、瞑想をする時には、お腹を広げて呼吸をするでしょう。緊張しているときは早く、浅い呼吸をし、落ち着いているときはゆっくりと安定した呼吸をするはずです。呼吸の仕方に正しい方法、間違った方法はありません。ただ、呼吸方法を変える理由とその方法を理解すれば、自身をコントロールする道具として呼吸を使うことができるようになるのです。

 

 効果的なコミュニケーションを達成するためには、意識的に行う横隔膜呼吸がカギとなります。肺のすぐ下に胸腔と腹腔を分けるドーム状の筋肉があります。これが横隔膜です。この横隔膜が収縮、つまり緊張している状態では、筋肉が下に下がり平らになり、肺が拡張し空気でいっぱいになります。これが息を吸うときの状態です。筋肉が弛緩すると、横隔膜はもとのドーム状にもどり、肺を圧迫し、空気が押し出されます。これが息を吐くときの状態です。

 肋骨の少し下あたりに手を置いてみてください。そしてちょうどヘソの上あたりを触ってみると、呼吸に携わるこの横隔膜を感じることができます。 ちょっと咳をしてみましょう。つぎは笑って。横隔膜が上下に大きく動いたことがわかったでしょうか。私たちはこの筋肉を1日2万回以上使用しています。始めは、意識して筋肉を動かそうとすると、その動きとは自分の感覚とは逆と感じられるでしょう。息を吸う時、横隔膜がリラックスしているように思えるかもしれませんが、実のところ、このとき筋肉は緊張した状態になっています。逆に息を吐く時は、横隔膜はリラックスした状態になりますが、もしかしたら、筋肉を使って空気を押し出しているように感じるかもしれません。ここでは、多くのメカニックが働いていて、どの筋肉がいつ、どのように動くかは、非常に巧妙にできています。

 

 それでは、これから横隔膜呼吸について、それがどのような感じのものなのか、実際に行う時のコツを無理なく覚える方法を解説していきます。これから説明するエクササイズを行うことによって、横隔膜を使って大きく深い呼吸を意識的に行うことが簡単にできるようになります。腹式呼吸、丹田式呼吸と言えば、みなさんもう聞いたことがあると思いますが、ここでは横隔膜呼吸と呼ぶことにしましょう。

 まず、片手をヘソのちょうど上あたりに置いて、もう片方の手を胸に置いてください。腹部に置いた手の下あたりの下腹部をリラックスさせましょう。「ちょっと食べすぎたな」というときに、お腹を膨らませるような感じで。力を抜いてリラックスしましょう。それが最初のステップです。次に、口から息を吸い込み、肺の奥深くまで空気を送り込みます。このときお腹に置いている手が動いているでしょうか。逆に胸に置いた手はほぼ動かないはずです。それがステップ2です。そして、口から「フーッ」と、英語の「F」を発音するつもりで、ゆっくりと一定のペースで息を吐きます。

 このように(フーッ)。

 この「F」の音を出すような息をするのには、いくつかの理由があります。もちろん、人前で実際に出すわけではありません。そうではなく、話を始める前に横隔膜呼吸に入るための動作として、体に覚え込ませるために使います。「フーッ」と息を吐き出すとき、一定した「F」の音が聞こえるか否かで、空気の流れが一定してるかどうかを感じることができます。

 このように(フーッ)。 それでは、一緒にやってみましょう。

 まず、お腹をリラックスさせて、それから口から息を吸って、肺の奥の方まで空気を送り込みます。そして、フーッっと息を吐きます。これを繰り返し練習することで、呼吸を最大限に利用し、多くの酸素を取り込むことが可能になり、豊かな声を生み出すことができ、明瞭なコミュニケーションの基盤を築くことができるでしょう。

 早く、浅い、緊張した呼吸では、短絡的で散漫な思考しか生み出すことができません。何か言いたいことがあるとき、特に大勢の聴衆を前にするときには、横隔膜呼吸を行うことで、落ち着いて堂々と人前に立つことができます。呼吸が浅かったり、胸で呼吸しながら話すときは、緊張して震えたり、声が小さくなったりします。 こうした緊張状態は、しっかりとした横隔膜呼吸をすることで解消することができます。深く息を吸い込み、肺の奥底まで空気を送り込みます。しっかりと息を吐けば、喉頭と声帯を動かす筋肉が働いて、よりはっきりとした通る声を出すことができます。そして、この呼吸が、体全体に酸素を行き渡らせ、脳の冴えを良くし、筋肉機能の活性化に繋がるのです。

 

 私たちは、色々な場面で、横隔膜呼吸を自然に使っていることが多くあります。自分が精通していること、例えば日常生活で昨日のランチは何を食べたか、今日あった出来事を誰かに話すとき、見解や助言を求められたとき、体は自然と横隔膜呼吸を行い、言葉がすらすらと出てくるはずです。

 また、激情に駆られた時や切迫した状況に置かれた時には、横隔膜呼気をしていることに気付くでしょう。道路を横切ぎる子供を見て叫ぶような状況、事実無根のことで受けた非難に対して反論するとき、その直前には肺にたくさんの空気を送り込んで、深く大きな呼吸をしているはずです。

 面白いことに、話を始める前に思考がまとまっていないとき、私たちは横隔膜呼吸とは違った呼吸をします。ずっと前に読んだ本の、ある部分を思い出すように言われたとき、あるいは、あまり知らない話題について説明するように求められたとき、あるいは言いたいことがまとまる前に話し始めるときは、気持ちに戸惑いがあるので、呼吸は浅くなっているはずです。

 しかし、何を言えばわからないという状況に陥ったときも、一瞬で安定した呼吸を取り戻す方法があります。まとまったしっかりした思考を生み出すために一息おいて、それから横隔膜式呼吸で、ゆっくり深く呼吸し、言葉を発します。そうすることで、すぐに戸惑いの状態から脱して、すっきりした気持ちになるでしょう。またきちんとした呼吸から生み出された考えや表現で話せば、その声には、熱意、説得力、重要性や緊迫感が加わります。

 私たちの呼吸と思考は表裏一体の関係にあって、呼吸の仕方によってポジティブ思考にもネガティブ思考にもすることもできるのです。次回のエピソードでは、「一呼吸につき一思考」のルールを紹介し、呼吸と思考の関係についてじっくりとお話をしていきます。

 

 誰かに伝えたいことを伝えることは決して簡単なことではありません。しかし自分の考えをうまく言い表す基盤として、意識的に横隔膜呼吸を取り込むことで、戦略的なコミュニケーションの土台を築くことができるのです。横隔膜呼吸が声、体、思考プロセスにどう影響しているか感覚がつかめるまで、繰り返し練習してみましょう。普段の会話の中で、どんなときに横隔膜呼吸を活用できるかを観察、もしくは、すでに活用している場面を考えてみてください。

 あなたが見過ごしていた呼吸の価値を見直すことで、今後のエピソードに備えてしっかりした基礎をつくっておくことができるでしょう。